紅茶はストレートで飲むものだとハルミは普段から力説している。
ペットボトルに入った紅茶は、『ストレート』と表記されているにも関わらず、砂糖が大量に入っていることに納得が出来ない、という話を聞かされるのはもう三、四回目。
茶葉の名前を言われても俺には全く分からないが、この喫茶店の紅茶はそんなハルミも認めた味だ。


ハルミと知り合ったのは二ヶ月ほど前。
一人欠員が出たからと数合わせで当日に呼ばれた、俺にとって人生で初めての合コンだった。
大学院の科学研究室に篭り、休日は家でブラウジングかテレビゲームをするだけの日々を送っている俺にはあまりに刺激的だった。
王様ゲームこそやらなかったが、五人ずつの男女の内、二組も二次会を抜けて夜の街に消えた。
二十代半ばともなると、数時間会話をしただけで性交渉の約束を交わせるらしい。

そんな合コンの一次会の席替えタイムでハルミと隣になり、家が近所だということが分かって意気投合した。
ハルミがこの喫茶店を教えてくれたのはそのときだ。
それから何度かここでお茶をしている。


「ねぇ」
「ん……うわっ」

ハルミがティースプーンを俺の目の前に突くように向けていた。
俺が気付くとそれでカップの中を一周して一口飲んだ。
ストレートなのに混ぜる意味はあるのだろうか。

「どうしたの? ぼーっとしてる」
「ごめんごめん、ちょっと考えごと」
「聞いてなかったでしょ?」
「何を?」
「やっぱり」

ハルミはわざとらしく頬を膨らませた。
人と話をしている最中でも、それと関係ない考えごとをしてしまうのは俺の悪い癖。
ハルミはもう一口飲んでから続けた。

「『聞いて欲しい話がある』って言ったの」
「あ、そうかごめん、何?」

俺は身を乗り出して、しっかり聞く意思があるという主張をした。

「変な話だけど、信じてくれる?」


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