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私が高校に入学した当時、iモードが始まったばかりで、ケータイがセンセーショナルを巻き起こしていた。

バイト代を貯めて初めて買ったケータイは、

画面は緑色、着信音は三和音の、今では子どものおもちゃにもならない代物だった。


メールの存在が一般的になったのもその頃。

当時のメールアドレスのローカル部(@の前の部分)の初期設定は、ケータイの電話番号そのままだった。

しばらくして、迷惑メールが問題になるまで、メールアドレスを変更する人はほとんどいなかったと思う。



当時、初めてできた彼女が言う。
「メアドにお互いのイニシャルを入れようよ!」






そんなのが流行っていた。
現代でいうところの、フェイスブックの「交際中」表示や、ツイッターのプロフィールに「大切な人がいます」と書くようなものだ。
同じくらい、スベっている行為。
そんな情報誰も知りたくないのに、示して何になるのだろう。


なんだかんだ、若気の至りと言うべきか、嫌々ながらも彼女の要望に応じた。

私のメールアドレスは、私のイニシャルと誕生日、その後ろに彼女のイニシャルと誕生日。

彼女のメールアドレスは、それをテレコにしたものにした。


この行為には大きなリスクが二つある。

一つは、交際が破綻すると、必然にメールアドレスの変更をしなければならなくなり、破綻したことが周知になること。

もう一つは、身を持って体験することになる。



バイト先に、とてつもなく好みの新人が入った。

キレイ系で、Sっぽくて、彼女の勤務初日に一目惚れしてしまった。
客足が途切れたタイミングで世間話をしていると、彼女が一歳年上だと知った。


「俺の方が年下なんで、タメ口にして下さい」
「うーん、じゃあカズキさんは先輩なので、プラマイゼロでお互いタメ口にしませんか?」


その台詞、その言い方に、ますます興味を持ってしまった。

年上のお姉さんに憧れる年頃だったからなおさらだ。



バイトが終わる三十分ほど前、引き継ぎの人のために片付けや掃除をしている時だった。


「話し足りないから、終わった後ファミレスでも行く?」


彼女の方から誘ってくれた。

それまでの会話で、趣味嗜好や考え方が似ているなと感じていたのだが、彼女の方もそう思ってくれたのかもしれない。



バイト先の最寄りのファミレスで、軽く食事をしながら談笑した。

ドリンクバーで選ぶものも似通っていて、


「気が合いそうだね」


なんて言い合った。

これは、イケるかもしれない……。

デートをしている妄想や、Sっぽい彼女が上で私が下になっている妄想をした。

モテない人生を歩んできたけど、会ったその日に、なんて展開もあるか? 来た、始まったぞ俺!


「じゃあ、そろそろ帰ろうか」


彼女のその声に我に返った。

焦る必要はない、まだ初日だ。

これからバイト先で週に何度も顔を合わす。

とりあえずメールアドレスの交換でもしておくか。


「あのさ、メア……」


言い掛けたところで気付く。

まずい、メールアドレスには交際中の彼女のイニシャルが入っている。

交際中といっても、もう何ヶ月も連絡を取っておらず、

正式に別れ話をしていないだけで、とても彼女と呼べる間柄ではなかった。


でも、彼女にメールアドレスを見られたら勘違いされる。

説明をしても、メールアドレスを変更していないから、引き摺っていると思われてしまうかもしれない。

考え方が似ている彼女は、私と同じでスベっている行為が嫌いかもしれない。

軽蔑されては終わりだ。
得策は、この後メールアドレスを変更し、後日バイト先で交換する。

これならイケる、きっと上手くいく。


「ん?」
「いや、何でもない! また来よう」



数日後、彼女との二度目の勤務日。

意気軒昂にバイト先へ向かう。

更衣室で制服に着替え、事務所に降りた。


「おはようございます!」


いつもよりオクターブ高かったかもしれない。

それくらい興奮していた。

彼女に会える、顔が見れる、また彼女が上になっている妄想をしてしまう。


ところが、出勤五分前になっても彼女が来ない。

分からないけど、漠然と、何か嫌な予感がした。
ほどなくして社員が私の元へ来た。


「ごめん、今日一人で頼むわ。俺は裏にいるからピンチのときに呼んで」
「えっ? 新人さんは?」
「それが、一時間くらい前に、他のバイトが決まったから辞めるって電話してきて、一方的に切られたんだよ。やられたよ」


なんてこった……このムラムラの、いや、ドキドキの行き場はどこに向ければいいんだ。

もう彼女に会う術はない。

あの時、メールアドレスを交換していれば。

あの時、イニシャルを入れることを承諾しなければ。



恋愛はスピードが大事だと学んだ。

いいと思ったらその瞬間にいってしまえ。


それがカンタンにできれば苦労はないけど。







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