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初めて本命チョコをもらったのは小6のときだった。

当日の放課後、帰ろうと教室から出ようとしたところ、

「西山くん、ちょっと待って!」

クラスの活発な女子から声を掛けられた。
なんとなく気づいていながらも訊いてみる。

「なんで?」
「チョコを渡したいの…」

キターッ!
欲を言えば、アイススケートのコからもらいたかったけど、
なんとも言えない相手でも、もらえるということだけで歓喜した。





「私じゃなくて、◯◯ちゃんが…」

え?
彼女の目線の先で、席に座った◯◯ちゃんが恥ずかしそうに俯いている。

おいおい、マジか。
◯◯ちゃんは、クラスで1、2を争う暗いコ。
悪いコではないのだが、お世辞にもカワイイとは言えないコだった。
アリかナシかで言うなら、全力でナシである。


教室に3人だけになり、重い空気になる。

「ほら、◯◯ちゃん」
「…」

友達が促すも、座ったまま微動だにしない。
だんだんイライラしてきた。

「帰りたいんだけど…」
「待って! じゃあこれ…」

◯◯ちゃんの前に置いてあるチョコの箱を取り、◯◯ちゃんの代わりに私に渡す友達。
地蔵からお供え物を奪うかのように見えた。
包装紙には、「大好き」と書かれたシールが貼ってあり、背中がぞわっとした。





走って校庭に出ると、隣のクラスの友達が2人いて、一緒に帰ることになった。
失礼な話だけど、◯◯ちゃんからチョコをもらったことを言いたくなくて、ランドセルに隠してある。

「チョコもらったー?」
「もらえねぇよー」

信号待ちでそんな話を始めた2人。
これはマズイ。

「西山は?」

ほら、やっぱり振ってきた。

「もらってないよ」


そして、2人と別れたあと、家のマンションの外のゴミ捨て場にそのチョコを放り投げた。
チョコは好きだから食べたかったけど、親にもバレたくなかった。


◯◯ちゃん、あのときはごめんなさい。
でも、お返しをしなかった私に腹が立ったのか分からないけど、
中1になって、「あいつにはチョコをあげてもお返しをくれない」と噂を流すのはどうかと思うよ。



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